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    「うん、うん。あ、さうだ、顔を一寸洗はなくちや」

    房一は微笑した。――つい半月ほど前、房一には初めてだつたが、郡の医師会が隣町であつたので、練吉と二人づれで出席した。その晩の宴会で、練吉は酒癖の悪い所を見せた。或る医者と練吉との間には、房一には判らない感情的ないきさつがあるらしく、飲んでいるうちに練吉は突然口論をはじめ、つかみ合ひになりかゝつた。房一は練吉の留役だつた。そして、まだしきりに興奮して、「やい」とか「山梨の野郎、出て来い」と思ひ出したやうに怒鳴る練吉の腕をしつかりと抱きこんで旅館まで連れかへり、水をほしがつたり又その上にのみたがつたりする練吉を押へつけるやうにして寝かしたのだつた。

    「あ、お帰んなさい」

    「ふうん、それもよからう」

    「先代がぽつくり死にましてね。おかげでこんな所へ引つこむやうになつてしまつたんですが」

    「どういふことです、わたしにはさつぱり――」

    「やつぱり、あんただつた」

    練吉は顔をしかめ、手を振つた。

    練吉の口振りが意地の悪いものだつたにかゝはらず、今泉はむしろ話のきつかけを得たことを喜んでいる風だつた。

    だが、その間にも土手の押問答はつゞけられた。

    彼が冠をとると、円味のある顎肉には紐の痕が紅く残つていた。

    と、案外冷静に云つた。

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